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【アトピー性皮膚炎とは】
アトピー性皮膚炎はかゆみを伴う湿疹が繰り返し現れる慢性の皮膚疾患です。アトピー性皮膚炎の方はアトピー素因を持っていることがほとんどで、これには気管支喘息やアレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎の既往歴や家族歴、または特定のアレルゲンに対するIgE抗体を産生しやすい体質が含まれます。アトピー性皮膚炎のようなかゆみのある湿疹は掻くことが多く、掻くことで症状が悪化していくという悪循環(かゆみと掻破のサイクル)を生み出します。この悪化は不眠や集中力の低下、仕事や学業のパフォーマンス低下の影響、生活の質の低下などの問題を引き起こします。
〈アトピー性皮膚炎は次の3つの特徴を持っています〉
- ☑皮膚のバリア機能の低下
- ☑アレルギーによる皮膚の炎症
- ☑比較的強いかゆみ
アトピー性皮膚炎は、先天的に皮膚のバリア機能が弱く(乾燥肌や敏感肌)、正常な皮膚に比べて外部からのアレルゲンが侵入しやすく、刺激を受けやすいため炎症が起こりやすくなります。通常、皮膚のバリアは水分や皮脂によって保たれ、外部からの異物の侵入を防ぎますが、アトピー性皮膚炎の方はこのバリアが弱い上に、掻き壊すことでさらにその機能が低下し症状を悪化させていきます。
〈アトピー性皮膚炎の代表的な症状〉
- ●かゆみ
- かゆみはアトピー性皮膚炎の代表的な症状で、またご本人も不快に感じる最たる症状です。皮膚の乾燥やバリア機能の低下によって、アレルゲンや刺激物が皮膚内部に侵入しやすくなることで皮膚の炎症を引き起こし、それがかゆみの原因となります。かゆみを感じて皮膚を掻くことでバリア機能がさらに損なわれ、炎症が悪化し、さらなるかゆみが発生します。この悪循環が、アトピー性皮膚炎を慢性化させ、ますます症状を悪化させることにつながりますので、まずはかゆみを抑えることはアトピー性皮膚炎治療においては基本的な考え方になります。
- ●アレルギー性炎症
- アレルゲンが皮膚から体内に入ろうとすると、体は異物を排除しようとする反応を示し、炎症が発生します。アトピー性皮膚炎では、通常は無害な物質に対しても免疫系が過剰に反応し、不必要な炎症を引き起こすことが特徴です。炎症を引き起こすことで他人からの視線が苦痛に感じる方もおられます。かゆみ同様、炎症をできるだけ抑え見た目が気にならないようにすることも、アトピー性皮膚炎の治療には重要なことです。
【アトピー性皮膚炎の原因】
アトピー性皮膚炎の原因はまだ完全には解明されていません。「アトピー」という言葉自体が「不思議な」や「原因不明の」という意味を持ち、普通の人には気にならない刺激に対しても過剰な反応を示します。体質やアレルゲン(ペットの毛、雑菌、食べ物、ダニ、カビ、ハウスダストなど)やストレスなど、複数の要因が絡み合って発症すると考えられています。以下では、それらの要因について説明します。
- ●肌バリア機能の低下
- アトピー性皮膚炎の患者は肌が常に乾燥していることがほとんどです。健康な皮膚は、肌バリアが機能しているため、アレルゲンに触れても内部への侵入を防ぐことができます。しかし、アトピー性皮膚炎の方はバリア機能が低下しており、アレルゲンが簡単に肌内部に入り込み、かゆみや湿疹を引き起こします。
- ●体質的な要因
- アトピー性皮膚炎は「アトピー体質」と呼ばれるアレルギー反応を起こしやすい体質が関連しています。アトピー体質の人は、アレルギー性の結膜炎や喘息を併発することが多く、家族内でも同様の体質を持つ人が見られることが多いです。さらに、かゆみを引き起こすヒスタミンを分解する能力が低いため、ヒスタミンが体内に多く残り、症状が悪化しやすくなります。アトピー体質の方は、皮膚の保湿を担うセラミドの生成能力も低く、通常の人の半分程度しかセラミドがないとも言われています。
- ●物理的な要因
- アトピー性皮膚炎は、食べ物やダニ、ホコリ、カビなどのハウスダスト、ペットの毛やフケなどさまざまな物質によって悪化することが知られています。また、自分の髪の毛やウールなどの繊維、汗やよだれもアトピー性皮膚炎を悪化させる要因です。その他にも、紫外線や化学物質を含む空気(タバコの煙、花火の煙など)も肌への刺激となり、症状を悪化させます。
- ●ストレス
- ストレスはアトピー性皮膚炎の悪化に大きな影響を及ぼします。精神的なストレスが続くと、免疫系、内分泌系、神経系のバランスが崩れ、アトピー性皮膚炎を引き起こしたり、悪化させたりします。ストレスによる強いかゆみで掻くことが肌へのさらなる刺激となり、かゆみが増してしまうという悪循環に陥ります。特に大人のアトピー性皮膚炎において、ストレスは悪化の主要な要因の一つです。
【当院のアトピー性皮膚炎の治療方針】
当院のアトピー性皮膚炎治療は外用薬治療、内服治療、紫外線療法、生物学的製剤など、多くの選択肢を揃えています。患者さんの状態、費用面、生活スタイル、を考慮した治療を提案できるように、患者さんのご希望を聞き出すために優しくコミュニケーションをとるよう心がけています。
〈外用薬治療〉
当院のアトピー性皮膚炎治療の第一選択として、最も手軽で患者さんへの負担が小さい外用薬治療を行います。「ステロイド外用薬」「免疫抑制外用薬」「JAK阻害外用薬」「PDE4阻害外用薬」などの塗り薬を処方し、かゆみ、赤み、炎症などを抑えます。そして「ヘパリン類似物質含有製剤」「尿素製剤」「白色ワセリン」など皮膚の乾燥を防ぎ、バリア機能を回復、維持させます。最近はアトピー性皮膚炎の外用薬として、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害外用薬やホスホジエステラーゼ4(PDE4)阻害外用薬が次々と誕生し、アトピー性皮膚炎治療の幅が広がっています。
〈内服薬治療〉
外用薬治療のみでは効果が不十分だったり、また全身にアトピー性皮膚炎の症状が見られる場合などは、「抗ヒスタミン薬」や「抗アレルギー薬」などの飲み薬を併用することもあります。最近では経口のJAK阻害薬として「オルミエント」「リンヴォック」などもあります。患者さんの状態や条件によっては、これらの薬剤を使用することもあります。15歳以上の成人だけではなく、リンヴォックは12歳以上から使用可能、オルミエントについては2歳以上の小児も使用できるようになりました。
〈紫外線療法(光線療法)〉
かゆみの症状が強い場合や広範囲の場合、もしくは外用薬治療の使用は避けたいという方には紫外線療法(紫外線療法)を行います。
※外用薬治療、内服薬治療と併用する場合もあります。
アトピー性皮膚炎の患部が小さい場合はVTRACというターゲット型のエキシマライトを使って患部に308nmの波長のライトを照射します。数秒~数分の短時間照射で終わり、痛みなども全くありません。
アトピー性皮膚炎の患部が広い場合はダブリンという全身型のナローバンドUVBを使って患部に311nm~313nmの波長のライトを照射します。全身になるので照射時間は5分~10分程かかりますが、一気に照射されるので効率的に治療を行うことができます。
どちらの機器を使ってもアトピー性皮膚炎のかゆみや赤みがおさまる方は多く、保険適用となります。(3割負担の方で約1,000円の自己負担)ただしアトピー性皮膚炎の光線療法(紫外線療法)は1週間に1回~3回程度照射すると効果が出やすいため、定期通院が必要になります。症状が落ち着いてきたら月に2回の照射でも大丈夫です。当院ではまず患者さんの状態を診させていただき、患者さんのご通院スタイルや費用面などを考慮した上で、光線療法(紫外線療法)をご紹介させていただいております。
〈生物学的製剤〉
外用薬治療や光線療法の治療を行っても寛容しない、もしくは中等症~重症のアトピー性皮膚炎の方には生物学的製剤を用いた治療を選択することもあります。従来のアトピー性皮膚炎の治療では効果が乏しかった方でも、大きな症状の改善が期待できる治療法です。現在最も一般的な生物学的製剤として「デュピクセント」があります。2018年に承認された注射薬ですので比較的新しい治療法です。「デュピクセント」以外にも当院では「ミチーガ」などを扱っています。製剤毎に効能効果に特徴があり、治療を開始できる方の条件や、費用も高額となりますので(ほとんどの方は高額療養費制度が適用となります)、治療を開始されたい方は一度医師の診察を受けていただければと思います。15歳以上の成人だけではなく、デュピクセントは生後6か月以上の小児から使用可能、ミチーガについては13歳以上の小児も使用できるようになりました。
【アトピー性皮膚炎の日常生活の注意点】
アトピー性皮膚炎はお薬の使用等の治療以外にも、普段の日常生活で気を付けていただくことで、症状の悪化を防ぎ上手に付き合っていくことができます。
- ●肌への刺激が少ない肌触りの良い衣服を着用する
- 衣類は肌に擦れたり、締め付けが強かったり、汗をかきやすい素材のものは避け、肌触りが優しく、ゆったりとしたもの着用するようにしましょう。縫い目が肌に当たり刺激になりやすい下着は着用を避け、ベルトのバックルが直接肌に触れないようにするなど、少しの工夫でアトピー性皮膚炎の悪化を防ぐことに繋がります。
- ●入浴中は肌に負担をかけすぎないようにする
- アトピー性皮膚炎の方は皮膚を清潔に保つことが重要です。そのため毎日の入浴やシャワーはとても重要です。入浴時にお気をつけいただきたいことは、熱いお湯の湯舟に浸かったり、シャワーを使用しないようにしてください。熱すぎるお湯は皮膚の脂と水分を必要以上に流してしまうため、ぬるめのお湯を使用するようにしてください。またシャンプーや石鹸は刺激が少ない物を使用することが基本になります。ただ刺激が弱すぎてしっかりと洗えない物もあるので、ご自身に合った物を使用してください。体を洗う際は手のひらで優しく洗っていただき、過度な刺激を与えないように注意してください。
- ●汗のケアを行う
- 汗をかいた状態で放置するとアトピー性皮膚炎の悪化要因になります。汗をかいたら小まめに拭きとるか、もしくはシャワーなどで洗い流すか、小まめなケアを心がけてください。
- ●ストレスをためない運動を意識する
- ストレスはアトピー性皮膚炎の症状を悪化させる要因になります。日ごろから運動を行うなどストレスを発散するようにしてください。過剰なストレスがかかっている時は、マッサージやリラクゼーションなどを受けられても良いと思います。
- ●食生活に気を付ける
- 皮膚の刺激になりやすい、アルコールや香辛料などを摂取することは避け、食事の内容に気を付けていただきたいと思います。特に野菜、果物などはビタミンを多く含み、魚類などはEPAやDHAを多く含み、皮膚のバリア機能が高まる効果が期待できますので、バランスの良い食事を心がけるようにしてください。
- ●睡眠をしっかりと取る
- 睡眠が不足すると成長ホルモンの分泌が低下し、肌荒れになりやすく、皮膚のバリア機能が低下しやすくなります。夜更かしをせずに規則正しい睡眠時間を確保していただくこともアトピー性皮膚炎と上手に付き合っていただく大切なことです。